お知らせ

情報デー/時の話題講演会

手塚 貴子氏

講演風景

その時々の話題や関心事など身近なテーマで毎年開催している「情報デー/時の話題」講演会。今年は7月2日(木)午後2時から、新潟日報メディアシップ・日報ホールにて開催されました。「つくる人と、食べる人をつなぎたい」。そんな思いで発刊された食べ物付き情報誌「食べる通信」の新潟版、「稲花ineca食べる通信 from新潟」の編集長、手塚貴子さんの体験を多く交えた話に、出席した約60人が聞き入りました。
 終演後は「稲花」が飛ぶように売れ、新潟の農業の魅力を伝える新しい情報誌への関心の高さを示しました。

●演題
「新潟の農業の可能性~“食べる通信” 稲花inecaの試み~」

●講師
㈲フルーヴ代表取締役、「稲花-ineca―食べる通信from新潟」編集長
手塚 貴子(てづか・たかこ)氏
●講師プロフィール
1962年北海道生まれ、3歳から東京で育つ。大学卒業後、専門商社・派遣社員・広告代理店・ベンチャー企業に勤務したのち、2002年㈲フルーヴを起業。クライアントごとに外部スタッフと連携し企画立案を行う。13年に新潟事務所を開設、常駐し稲作に取り組む。14年11月、新潟の食べ物と農業を紹介する季刊誌「稲花」を創刊。また11年法政大学大学院公共政策研究科博士前期課程に入学、現在は後期課程に在学中。子育て中の女性へのインタビューを「女(JOB)ブ活!」サイトに掲載中。新潟市西蒲区在住。



東京育ちの私が、なぜ新潟に移り住んだのか?

 「稲花 食べる通信 from新潟」を創刊したのは、昨年の11月でした。東京で育ち、東京で働いていた私が、なぜ新潟の食を発信することになったのか。きっかけは、数年前、新潟市西蒲区の岩室を訪れたことでした。酪農のショッピンングサイトを立ち上げることになり、「現場を見ておこうと」と、つてを頼って行った先が、岩室にあるファーム。「なんていいところなんだろう。食べ物がおいしいし、海も山も、温泉もある」。感動した私は、その後、何度かプライベートで訪れているうちに、とうとう「住みたい」、「いや住もう」と思い立ち、住まいを移しました。
 東京では、独立して約10年、企業や商品、イベントの広告や販促などを行っていましたが、それはそれとして、せっかく移り住んだのだから、何か新潟でなくてはできないことをしたい。そう考えて浮かんだのが農業でした。新潟といえば米どころ。ならば米をつくりたい、と思ったんですね。もう一つは、とれたての作物をセットにして東京に販売しよう、と。農業については、まったくの初心者。何から何まで農家さんに教わり、なんとか収穫にこぎつけましたが、2年目の今年からは少し作付けを減らし、一方の産直セット販売は断念。ただし、思いは「稲花 食べる通信 from新潟」という情報誌につながりました。

食べる人とつくる人をつなぐ『食べる通信』

 ここで「食べる通信」についてちょっとお話ししましょう。「つくる人と食べる人、農山漁村と都市をつなぐ」という考えで、2013年、東北で始まった「食べる通信」は、生産者をクローズアップした情報誌と生産物をセットで届けるプロジェクトです。この動きは全国へと広がり、北海道、下北半島、福島、東京の築地、 能登、兵庫など、今や12誌、12エリアを数えるまでになりました。
 私自身、新潟を知って以来、「なぜ新潟のおいしいものが、東京に届いていないのだろう」と思ってきました。また、自分自身、米作りを始めてからは「このつくる苦労も含めて、もっと食べるひとに伝えていきたい」という気持ちも加わりました。そんななかで「食べる通信」の存在を知り、新潟版をつくりたい、と名乗り出たという次第です。

 創刊号では、「こんなにおいしいのに、首都圏では認知度が低い。しかもなかなか手に入らない」と強く実感していた「ル・レクチェ」を取り上げました。第2号では越後姫、そして3号ではハチミツを取り上げ、生産物と一緒に読者の元へ届けました。私自身、ずっと東京に暮らしていて、新潟といえば米、酒でした。でも、こちらに来てみて感じたのは、米だけじゃないんだということ。それをしっかり伝えていきたい、と思っています。

「つくること」をちゃんと伝えたい。
農業体験がもう一つの柱


 「つくる人と食べる人。農山漁村と都市をつなぐ」という考えは「食べる通信」のものですが、この考えを伝えるべく、行っているもう一つが農業体験です。
 米を作ってみて思ったのは、まず、こんなに大変なものだったのか、ということでした。そして当然ですが、農業や、生産物に対する思いも変わりました。「食べる人」に、そんな思いを共有してほしくて、私が借りている田んぼでは田植えや草取り、稲刈り、はざかけなどを体験してもらっています。米だけでなく、「稲花 食べる通信 from新潟」の次号予定の巨峰の摘粒(てきりゅう)、次々号予定のキウイの摘果体験も企画して、東京や新潟の人に参加してもらいました。参加者の感想をうかがうと、「稲花に出会っていろんな初体験ができてうれしい」「楽しい。またやりたい」というのがほとんどで、それはお金と時間をかけてまでわざわざ来てもらっているということに表れていると思います。

新潟の農業は、まだまだこれから。

 最近では、空き家を利用して「手塚ハウス」をオープンしました。体験に訪れる人たちの宿泊を助けたいと思ったからですが、この手塚ハウスは、田舎がない人の田舎になる、つまり「ineca読者のinaka」になれるのではないか、と思っています。
 そして今後やっていきたいのは、農業体験の拡大や、産直ショップのリニューアル。農業体験は、たとえばホテルが普段使っている生産物の田んぼや畑を体験現場にし、さらにそこをホテルが借り上げることで、ホテル、生産者がWin-Win(ウィンウィン)の関係になれる。また、産直については、まだ県内向けのアピールにとどまっていて、結果、閉めてしまうところも多い。もっと県外に向けて発信すれば、それこそ「産直の寺泊」になれるのではないでしょうか。
 新潟の農業は、まだまだ可能性があります。農産物の種類、その味わい、現場のこと。情報誌や体験を通して、もっとたくさんの人に、正しく知ってもらえば、つくる人、食べる人双方にメリットが生まれる。だからこそこれからも、新潟のつくる人と全国の食べる人を、もっと強く、ちゃんと、つないでいきたいと思っています。