お知らせ

情報デー/時の話題講演会

その時々の話題や関心事など身近なテーマで毎年開催している「情報デー/時の話題」講演会。今年は7月25日(金)午後2時から、ホテルイタリア軒にて開催。「広告の仕事は、受注でなく自分たちから発信することで、世の中を幸せにしていくことができる」。カンヌ広告祭でも数々の賞を獲得している、いま最も勢いのあるクリエイターの説得力ある話に、出席した100人あまりの会員は熱心に聞き入りました。

鷹觜愛郎氏

鷹觜愛郎氏

●演題

「地域課題と向き合うクリエイティブ」

●講師

博報堂iD局クリエイティブディレクター/東北博報堂 エグゼクティブクリエイティブディレクター

鷹觜愛郎(たかのはし・あいろう)氏

●講師プロフィール

1963年岩手県生まれ。90年、盛岡博報堂にコピーライターとして入社。岩手県の年間広告グランプリ「県知事賞」を歴代最多の8回受賞。2008年、秋田博報堂独立法人化に伴いマーケットデザイン部部長。在籍中、秋田広告賞(部門最高賞)を3年連続受賞。11年、仙台博報堂に転勤。仙台クリエイターオブザイヤー最高賞受賞。東日本大震災後、「三陸に仕事を!プロジェクト」を立ち上げ、魚網を使った浜のミサンガ「環」は、ネット販売がベースながら16万セット(1億5千万円)を超える販売を記録。塩害農地の再生プロジェクトなども推進し、東北支援を継続している。

被災地に仕事をつくり、作り手と支援者、双方の思いが伝わるしくみに

僕が地域課題と向き合うきっかけとなったのは、2011年3月11日の東日本大震災です。震災後、支援金がすぐに届かなかったり、支えたいという思いが現場に届かなかったりする現状がありました。そこで被災地に仕事をつくり、商品を作る側と支援する側の両方の思いが伝わる仕組みをつくれないかと思って立ち上げたのが「三陸に仕事を!プロジェクト」で、漁網を使った「浜のミサンガ『環』」という活動です。

三陸海岸には小さな浜がたくさんあります。津波の被害は大きく、高齢化も進んでいて、内向きな話ばかりが蔓延していました。復旧作業などで需要のある男性と比べ女性は仕事が見つかりにくい。震災によって失われた女性の仕事をつくることも必要でした。一目で浜をイメージする商品であること、仮設住宅でも作業ができることから、漁網を使ったミサンガづくりを提案することにしました。震災後3週間目に見本を作って被災地に行き、6月11日にある程度の個数が出来たので、テレビ局のご協力をいただきながら全国にCMを流しネット販売を開始すると、あっという間に在庫分が売れて大きな反響をいただき、この仕事を軌道に乗せられると確信しました。0からのスタートでしたが、プロジェクトを進める過程でさまざまなアイデアを出し合い販促につなげ、生産現場にチェックポイントを置くなどしてクオリティーの高い商品を提供し続ける体制を整えました。さらに透明性を大事にすることを徹底し、お金がどのように使われたかを開示しました。収入が得られることでミサンガの作り手も増え、商品はすごい勢いで売れました。

僕が携わってきた広告の仕事は、それまで100%が受注でしたが、この震災の案件を機に、自分たちで自主開発するということを始めました。僕らのクリエイティブの能力は、これからの社会や未来のために、もっと使っていけるのではないかとも思いました。

「フォーグッド」と「インターネット オブ エブリシング」

20世紀は消費の促進・規模の拡大など強さが価値の時代でしたが、21世紀は知恵を出し合い、みんなの幸せをどう作っていくかが価値になっていくと思います。広告を21世紀型にシフトする「フォーグッド」の概念は、企業・ブランドのビジネスをより良くすること、それを使うお客さまの暮らしもより良くすること、そしてさらに、その行為が社会や地球を良い方向に向けていくことです。これは莫大な資金を持っているナショナルスポンサーの話ではなく、小さい地域でもやれることです。

広告を未来化するデジタルのテクノロジーや、双方向のコミュニケーションの進化は、例えば過疎の農村の今までにない解決策を作ることもできます。僕たちが手掛けた「Rice-Code(ライスコード)」という、農地や風景をインターネットにつないでメディアにして直接の売り場にするという取り組みもその一つです。「インターネット オブ エブリシング」というキーワードがありますが、これまでインターネットに接続されていなかったすべてのものがインターネットに繋がると、アイデア次第で世の中に役立つことがどんどん生み出されます。私たちは消費欲だけではなく、何かを創造したり、考えたり、誰かの役に立ちたいという思いを持っています。人間の創造意欲とインターネットといった知恵を集める仕組みを活用した知の集積が、21世紀を変える社会の資源になるのではないでしょうか。